パンの基本 // 自家製酵母

こちらでは、ミツトパンが管理している自家製酵母を中心に、自家製酵母について詳しくご紹介します。

■自家製酵母とは?

自家製酵母とは?

自家培養酵母とも。食材そのものに付着している微生物(酵母や細菌)、あるいは空気中に浮遊している微生物をキャッチして培養し、主に製パンなどに使用するものです。

自家製酵母であっても、主流となる酵母はサッカロマイセスセレビシエに分類されるものがほとんどなので、市販の酵母(イースト)とさほど変わりません。ただ、自家製酵母の場合は、酵母と共存している細菌類が豊かであったり、酵母そのものが培養をくり返されることで種内変異などにより少し性質が変わっていたりするようで、その分、作り手や環境による個性が強く表現され、より個性的で複雑な風味をパンに添加することができます。これが自家製酵母が支持される主な理由です。

■自家製酵母の種類

ミツトパンで管理している自家製酵母はそれほど多くありません。ラインナップが少なくて申し訳ないのですが、ここでは、ミツトパンで管理している酵母と、知識として理解している酵母を合わせてご紹介します。ざっくりですが、以下をご覧ください。

  • フルーツ酵母
  • ヨーグルト酵母
  • 酒種
  • ライサワー種(いろいろひっくるめて)
  • ホップス種、ホップ種(こちらは取り扱ったことがないので、詳細はご容赦ください💦)
  • その他の酵母

自然界に、野生酵母をまとっている食材や植物などは無数あります。基本的には、そのどれからも酵母は起こせます。コーヒーやチョコレートなど、おしゃれな酵母もたくさんあるようです。未経験のものについては詳しくご紹介することは難しいので、ここでは実際に触れたことのある酵母について、起こし方や使い方を確認していきます。

 フルーツ酵母

フルーツの酵母には二種類あります。ドライフルーツで起こす酵母と、季節のフレッシュフルーツで起こす酵母です。

フルーツ酵母の作り方

フルーツ酵母は、基本的には「フルーツあるいはドライフルーツ」と「ある程度の水分」と「糖分」があれば、酵母を起こすことができます。この場合、フルーツに付着している酵母と空気中に浮遊している酵母をキャッチして培養することになります。使用するフルーツですが、わたしは水洗いします。厳密に言えば、その際に、フルーツに付着している酵母類は流れてしまうことになりますが……それを培地にして、浮遊酵母が培養されるというわけです。

具体的には、「フルーツ」「水」を合わせて、数日寝かせます。フルーツ酵母は、本来は、フルーツそのものが持つ「糖分」が酵母の栄養源になるので、糖分を加えずに作ることができます。ただ、甘味の少ないフルーツや、ドライフルーツのように皮が硬くて水の中に糖分が溶け出しにくいものを使用する場合は、別途、砂糖などを加えて糖分を補います。酵母をメインに起こすので少し高めの温度帯(28-30℃強)での保存が最適ですが、こちらのサイトでは、普段から扱い慣れている28℃で保存しています。できれば6時間ごとに、少なくとも12時間ごとに撹拌して、新鮮な酸素を供給します。フルーツの種類にもよりますが、フルーツが水分に浮かんで、色が抜け、フルーツの周りに細かな気泡が現れます。甘味は薄くなり、代わりに酸味とアルコールの風味がのってきます。液体の底に濁ったオリがたまり、オリの隙間からも細かな気泡が上がるようになってくると、酵母として使用できます

フルーツ酵母の使い方

私は基本的には、酵母液は元種か中種に変換してから使用します。酵母液をストレートで使用する場合は、発酵の勢いが酵母液の仕上がりの状態にかなり左右されるので、起こしたて以外ではあまりやりません。酵母液のまま使用する場合は、普段はベイカーズ%で15-30%くらい添加しています。発酵活性に不安が残る場合は、必要に応じて市販のインスタントドライイーストを併用しています。

詳しくはこちらをご参考になさってください。

レーズン酵母(準備中)

濃いちご酵母
桃とプラムの酵母

フルーツ酵母を使用したレシピ

 ヨーグルト酵母

ヨーグルトの酵母には二種類あります。簡単に定義すると、粉を加えずに作る酵母と、粉を加えて作る酵母です。粉を加えずに作る酵母は、ヨーグルト、水、糖分の三つの材料で起こします。粉を加えて作る酵母は、ヨーグルト、水、糖分、小麦粉の四つの材料で起こします。

粉なしの酵母は一般的な酵母液ですが、粉入りの酵母は小麦粉を発酵させているので、見方によってはサワー種と呼べなくもないかもしれませんね。のちにご紹介するライサワー種も、場合によっては、ヨーグルトを添加して起こします。

自家培養酵母自体を「酵母」と呼ぶことを嫌う傾向もあります。その場合は「種」と呼びます。ただ、個人的には、用語がより曖昧になり分かりにくくなると感じるので、自家培養であっても「酵母」は「酵母」と呼ばせていただきます。

ヨーグルト酵母の作り方

「ヨーグルト」「水」「糖分」を合わせて、あるいは「小麦粉」をさらに追加して、28℃で保存します。ヨーグルトの中の乳酸菌と一緒に、空気中の酵母や小麦粉に付着している酵母をキャッチして育てます。できれば6時間ごとに、少なくとも12時間ごとに撹拌して、新鮮な酸素を供給します。完成の見極めと使い方はヨーグルト酵母液とヨーグルト酵母種で少し違ってきます。詳細は以下をご確認ください。

ヨーグルト酵母液(準備中)

ヨーグルト酵母種(準備中)

ヨーグルト酵母を使用したレシピ

 酒種

日本酒を作る工程からヒントを得て作られた日本独自の酵母です。酒種にもいくつかの種類やアレンジされた酵母があります。

  • 酒種
  • 酒粕酵母
  • ごはんと麹の酵母
  • 甘酒酵母
  • 米サワー酵母

いずれも「酒種」にくくられますが、仕上がる種の内容は厳密には違うもののようです。酒粕酵母は酒粕から起こすので、スタートから清酒づくりのための酵母が含まれます。こちらを中心に微生物叢が決まります。ごはんと麹の酵母はごはんを加えるのは一度だけ、その後、スクリーニングをしないので、酵母とコウジカビ菌が優勢で、乳酸菌はほとんど残っていないものと予測されます。甘酒酵母は、甘酒の中でコウジカビ菌が生きている場合は、ごはんと麹の酵母にもっとも近いものだと思います。米サワー酵母は添加する乳酸菌が動物性の乳酸菌ですので、酒種とヨーグルト酵母の合いの子のような存在です。

これらに対してもっとも歴史の深い元祖「酒種」は、空気中の酵母と乳酸菌、米麹のコウジカビ菌を、それぞれのバランスをとりながら育てるものです。4回の種継ぎの際にごはんを数回に分けて加えるのですが、こちらのごはんが酵母の餌になると同時に空気中の酵母と乳酸菌をキャッチする役割を果たします。発泡力が強く、パンはよく膨らみますが、タンパク質分解酵素を多量に含むので、温度管理に注意します。新しい4番種完成から2日は乳酸菌も生きているという研究結果が示されています。ここではこちらの元祖「酒種」について述べます。

酒種の作り方

酒種の種起こしはスクリーニングをくり返して行います。少し複雑なので、以下の「酒種の作り方」をご覧ください。また甘酒とヨーグルトから作る「米サワー酵母」はもっと手軽ですよ。「米サワー酵母の作り方」もあわせてご覧ください。

酒種を使用したレシピ

 サワー種

「サワー種」という単語は捉え方の難しい単語です。日本のパン文化はポルトガル語やフランス語、ドイツ語、英語など、いろんな国の言葉が絡み合って進化してきました。

広義には、世界各国のあらゆる発酵種をすべてひっくるめて「サワー種」と呼びます。より限定的に使用する場合は、小麦やライ麦の乳酸菌と酵母を育てた発酵種のうちでも、乳酸菌をより優勢に育て、はっきりと鮮やかな酸味を感じられるように培養した種のことを指し、ルヴァン種やリエビトマードレなどとは区別されることもあります。この場合は、ドイツのライ麦サワー種(アンシュテルグート)のことを指したり、サンフランシスコサワー種を指したり、北欧のスアダイを指したりします。あるいは、所謂サワードウベイカーさんたちが使用する、種継ぎの小麦粉の一部にライ麦や小麦の全粒粉を使用して発酵力を整えた「サワードウスターター」を示すこともあります。ごちゃごちゃに使用されているので、前後の文脈で読み解く必要があります。

ここでは、幅広いサワー種のうちでもなんとなく的がしぼれそうなものを、私が理解している範囲で、ご紹介します。

  • ルヴァン種
  • ライ麦サワー種 / アンシュテルグート
  • サンフランシスコサワー種 / ホワイトサワー種
  • サワードウスターター
  • リエビトマードレ
イタリアのリエビト・マードレ北欧のスアダイなど、ルヴァン種のようであったり、ライサワー種のようであったりする、どこか似通っているけれど微妙に違うサワー種は、世界中に無数にあります。また新しい知識が増えたらご紹介しますね。

▶︎ルヴァン種

フランス語では単語そのものの意味として「ルヴァン」は「発酵種」全般を指します。ただし、ここではフランスの伝統的なパン作りに敬意を表して、より限定的な意味で、ルヴァン種は「小麦粉ないしライ麦粉と水で起こした発酵種のこと」を指すものとして扱います。小麦粉の乳酸菌と酵母を水の中で培養し、発酵種としてバランスを整えたものは、その他の酵母のように酵母のみを培養したものとは全く異なる風味があるからです。

発酵の旨味と乳酸菌の酸味を併せもつ複雑な香味が魅力的な発酵種です。フランスのパンには欠かせません。液状のものをルヴァンリキッド、パン生地のようなかたさのものをルヴァンデュールと言います。

市販のイーストと併用して風味づけで使うこともあれば、種の状態を整えて仕上げ種にして、発酵種の力だけでパンを仕上げることもあります。

日本では、レーズン酵母液などからルヴァンを起こす動きもあるようですが、こちらの発酵種はフランスのパンの法律上ではルヴァンと認められていませんので、割愛します。

ルヴァン種は、酒種と同様、スクリーニングをくり返して初種(親種)と呼ばれる酵母を起こします。詳しいルヴァン種の起こし方と使い方は「ルヴァンリキッドの作り方」をご覧ください。

ルヴァンのパン生地に近いかたさの種は、一般的には、ルヴァンデュールと呼ばれます。このルヴァンデュールの中でも、パン生地に配合するために段階を踏んで整えられたものではなく、スターターとして使用される親種のことを限定してルヴァンシェフ(親種)と呼ぶようです。間違ってたらごめんなさい💦

ルヴァン種を使用したレシピ

▶︎ライサワー種 / アンシュテルグート

「ザワータイク」という言葉の方が耳にする機会が多いかもしれません。こちらは中種という捉え方をするのが分かりやすいと思います。中種を作るために、スターターが必要ですよね? それがアンシュテルグートです。

ライサワー種(アンシュテルグート)は、小麦が育ちにくいドイツなどで、ライ麦で起こし、ライ麦でスクリーニングをくり返して育てる発酵種のことです。ライ麦粉の乳酸菌、酵母を水の中で培養し、発酵種としてバランスを整えます。アミラーゼの働きを抑制する種になるので、ライ麦粉主役でパンを焼く場合には欠かせない種です。

こちらのスターターは、中種に整えてから使用します。この中種、1段階で育てたり、3段階で育てたり、様々な作り方がありますが、昨今は市販のイーストの発酵力が安定していますので、3段階まで育てる方法を取ることはまずありません(……と思います💦)。

ちなみに3段階で育てた生地のことを、アンフリッシュザワー(1段階)、グルントザワー(2段階)、フォルザワー(3段階)と言います。この生地がザワータイクで、このザワータイクを入れて作る本生地がハオプトタイクです。混乱しますよね💦

ここについては大変わかりやすいサイトがありますので、ご紹介しておきます。こちらではヨーグルトをスターターにして、ライサワー種を起こしています。種のpHが自然と下がるので、雑菌を培養しにくいなどの利点があると思います。

ザワータイクの起こし方

ライ麦のパンをたくさん焼かれる方や、北欧のパン、ドイツのパンなどに興味のある方は、起こしておくと重宝します。簡単に作るには、市販のライサワー種のスターターを使用されるのもいいと思います。

▶︎サンフランシスコサワー種 / ホワイトサワー種

タルティーンベーカリーのサワードウブレッドや、クラムチャウダーとセットで食べるスタイルのサワードウでおなじみでしょうか。サンフランシスコサワードウブレッドで有名な、日本では手に入れにくい酵母や、ラクトバチルスサンフランシスエンシスという乳酸菌を有する発酵種のことです。この発酵種は、微生物が強い酸味を生み出すバランスに整っています。

印象としてはルヴァン種の酸味をより強化した種のような印象なんですが、市販のサンフランシスコサワードウスターターというものが手に入るらしいので、そちらの方がより理想に近いサワードウブレッドがやけると思います。スターターは米Amazonで手に入るようですよ。私は扱ったことがないので、割愛します。

▶︎リエビトマードレ

イタリアの伝統的なパネットーネを焼く発酵種ということで、近年、たいへんに注目されています。自家培養するとなるとおそろしく手間のかかる種で、1日に3回の種継ぎを7-10日(サイトによっては20日も!)繰り返す必要があるという、驚きの発酵種です。

はじまりには、小麦から起こしたスターターを使用できます。ルヴァン種をTA135-150くらいで繰り返し継いで、水漬けしたりシュガーバスにつけたりして、発酵力や酸のコントロールをして仕上げていきます。

手間がかかる分、こちらで焼くパネットーネは、それ以外の種で焼くものとは全く違ったものになります。素晴らしく美しいですし、圧倒的に美味しいです。

こちらの種を模して作られた酵母が日本で「パネトーネ種」と呼ばれているものです。イタリアのコモ粉周辺で見つかった特別な菌を含み、およそ400年の歴史があるそうです。この種はラクトバチルスコモエンシスという特殊な乳酸菌をはじめ、微生物のバランスが独特なので、生地に鮮やかで華やかな酸味と香りがのるのが特徴です。私はこの生種は扱ったことがないので、詳しく解説することはできません。ただ、おそらくリエビトマードレで作ったパネトーネとは全く違うものに仕上がるような気がしています。リエビトマードレで作ったパネトーネは、今まで日本で食べたどのパネトーネとも似ていないので、結局再現性は低いのではないかなあと思います。

私たちがもっとも手に入れやすい「パネトーネマザー酵母」は酵母自体はイーストなので、パネトーネ種とは違うものですが、パネトーネ種に似た風味が得られるようです。こちらは何度か使用しましたが、リエビトマードレとは全く異なる香りに仕上がります。残念です。

 その他の季節の酵母

野生の酵母はあらゆるものに付着していますし、空気中にも漂っているものなので、どんなものでも酵母を起こすことができます。基本的には、「食物(草花でも起きるみたい)」「水」「糖分」を合わせて、28℃で保存します。私が経験したことがある酵母を以下にご紹介します。

▶︎ビール酵母

非加熱のビールを使用して、培養する酵母です。フルーティな素晴らしい香りがします。パン生地にして焼いてしまうと、印象ががらりと変わり、かすれたような穀物の香り(麦の香り?)になります。ちょっと面白いので、興味のある方は起こしてみてください。もっとも良い香りの酵母(パンにする前)だと思います。

ビール酵母の作り方(準備中)

▶︎玄米酵母

玄米からは、発泡力が強くて、パンの香りを邪魔しないとても癖の少ない酵母を育てることができます。酵母そのものの香りは特別好ましい香りではないのですが(というか私は苦手な香りがします)、パンにするとさっぱりと香りが消えて仕上がるので、なかなか重宝していました。ただ、酵母のお世話をしても特別癒されることもなかったので(むしろ苦痛)、日常的に使用する酵母のラインナップからは外れています。

■市販のイーストが極端に嫌われるのはなぜ?

市販のイーストは天然の酵母で、自家製酵母となんら変わらないサッカロマイセスセレビシエです。市販のイーストはこのサッカロマイセスセレビシエに糖蜜を加えて培養しているのですが、これも、私たちが家庭で酵母に糖を加えて培養する工程となんら変わりません。一方で「イーストフード」というものは食品添加物なので、こちらは人工的な添加物です。こちらと混同されている方が多いのではないかと思います。

私たちが家庭で育てる酵母は、イーストの他にもいくつかの微生物を有する複合酵母なので、より複雑な香味があります。より美味しい、と感じる方が多いのは事実ですが、市販のイーストを毛嫌いするのはあまりおすすめしません。なぜなら、自家製酵母と市販のイーストの合わせ技は、お互いのいいところをより強調する生地作りができることがあるからです。市販のイーストとも上手につきあいながら、自家製酵母のパンを楽しんでいただけたらと思います。

■パンの用語集