ミツトパンが管理している自家製酵母を中心に、自家製酵母の種類や特徴を確認します。
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自家培養酵母 ともいう。自然界に生息している微生物(酵母や細菌)をキャッチして培養し、製パンなどの発酵に使用するもの。
アトリエミツトパンでは自家培養酵母という言葉を使用していきます。
自家製酵母ってこんなもの
自然界に生息している微生物(酵母や細菌)をキャッチして培養し、製パンなどの発酵に使用するもの
自家培養酵母であっても主流となる酵母はサッカロマイセスセレビシエに分類されるものがほとんどなので、市販の酵母(イースト)とさほど変わりません。
ただ、自家培養酵母の場合は酵母と共存している細菌類が豊かであったり、酵母そのものが培養をくり返されることで種内変異などにより少し性質が変わっていたりするようで、その分、作り手や環境による個性が強く表現され、より個性的で複雑な風味をパンに添加することができます。
自家培養酵母を「酵母」と呼ぶことを嫌う傾向もあります。自然の中の野生酵母を培養しただけでは安定性が低く、工場などで純粋培養されたイーストと比べたときに同じ「酵母」という言葉を当てはめるのがはばかられる、というような考え方からです。
その場合は「種」と呼びます。つまりレーズン酵母ではなくレーズン種と呼ぶということです。
うーん……逆にわかりにくいですよね。
個人的には自家培養酵母の安定性は結構高いなと感じますし、種という言葉にもさまざまな意味合いがあってよりわかりにくく感じるような気がするので、アトリエミツトパンでは自家培養酵母は酵母と呼ばせていただきますね。
自家製酵母はこんなにたくさんある!
フルーツ酵母
フルーツ酵母には二種類あります。ドライフルーツで起こす酵母と旬のフレッシュフルーツで起こす酵母です。
フルーツ酵母の作り方
ドライフルーツの酵母は次のものから起こします
・ドライフルーツ
・水
(・糖分)
ドライフルーツに付着している酵母や乳酸菌を28-30℃くらいの環境で、水の中で培養します。ドライフルーツがすでにたくさんの糖分を持っているので、別で糖分を添加する必要はありません。ただ多くのドライフルーツは固い皮におおわれておりフルーツの中の糖が水に溶け出すまでに時間がかかるので、砂糖などを少し補ってあげるのも良いでしょう。
旬のフレッシュフルーツの酵母は次のものから起こします
・フレッシュフルーツ
・水
(・糖分)
あまり変わりませんね!
基本的にはフレッシュフルーツは糖が少ないので添加してあげると良いと思います。
作り方は材料を合わせて数日寝かせるだけです。
酵母をメインに起こすので少し高めの温度帯(28-30℃強)での保存が最適です。アトリエミツトパンでは普段から扱い慣れている28℃で保存しています。
できれば6時間ごとに、少なくとも12時間ごとに撹拌して新鮮な酸素を供給します。
フルーツの種類にもよりますが、酵母が育ってくるとフルーツが水に浮かんで色が抜けてきます。瓶の中が盛大に泡立ちあふれそうなほどシュワシュワしてきます。そのうちに泡立ちが少し落ち着いてきて、フルーツの周りに細かな気泡が現れます。甘味は薄くなり、代わりに酸味とアルコールの風味がのってきます。液体の底に濁ったオリがたまり、オリの隙間からも細かな気泡が上がるようになってくると、酵母として使用できます。
フルーツ酵母の使い方
基本的には起こしたての酵母液以外は元種か中種に変換してから使用することをお勧めします。
起こしたての酵母液をストレートで使用する場合は、普段はベイカーズ%で15-30%くらい添加して使用しています。酵母液の香り(つまりフルーツの香り)が感じられるパンになります。
発酵活性に不安が残る場合は、必要に応じて市販の酵母を添加して併用します。
詳しくはこちらをご参考にしてください。
レーズン酵母(準備中)
ヨーグルト酵母
ヨーグルトの酵母には二種類あります。粉を加えずに起こす水溶液状の種と粉を加えて起こす水種状の生地種です。
ヨーグルト酵母の作り方
粉を加えないヨーグルト酵母は次のものから起こします
・ヨーグルト
・水
・糖分
粉を加えて起こすヨーグルト酵母は次のものから起こします
・ヨーグルト
・水
・糖分
・小麦粉
あまり変わりませんね!
作り方は材料を合わせて28℃で保存します。
ヨーグルトの中の乳酸菌に助けてもらいながら、空気中の酵母や乳酸菌、小麦粉に付着している酵母や乳酸菌をキャッチして育てます。できれば6時間ごとに、少なくとも12時間ごとに撹拌して新鮮な酸素を供給します。
完成の見極めと使い方はヨーグルト酵母液とヨーグルト酵母種で少し違ってきます。詳細は以下をご確認ください。
ヨーグルト酵母液(準備中)
ヨーグルト酵母種(準備中)
酒種
酒種は日本酒を作る工程からヒントを得て作られた日本独自の酵母です。いくつかの種類やアレンジされた酵母があります。
酒種の種類
実はこんなにたくさんあるのです。
- 酒種
- 酒粕酵母
- ごはんと麹の酵母
- 甘酒酵母
- 米サワー酵母
酒種の起こし方
酒種は次のものから起こします
・生米
・炊いたごはん
・米麹
・水
詳しくは酒種の起こし方をご覧ください。
酒粕酵母は次のものから起こします
・酒粕
・水
・炊いたごはん
・糖
酒粕から起こすのでスタートから清酒づくりのための酵母が含まれます。こちらに場合によっては微生物の栄養源となるごはんや糖を加えて水の中で培養します。
ごはんと麹の酵母は次のものから起こします
・炊いたごはん
・米麹
・水
ごはんと麹の酵母は材料を合わせるのは一度だけ。はじめから糖がふんだんにある中で酵母とコウジカビ菌を育てていきます。
甘酒酵母は次のものから起こします
・甘酒
(・水)
甘酒をそのまま、あるいは水で少し薄めて酵母とコウジカビ菌を培養していきます。必ず熱処理されていない甘酒を使用する必要があります。
米サワー酵母は次のものから起こします
・甘酒
・ヨーグルト
甘酒にヨーグルトを添加してpHを手早く下げて、その中で酵母とコウジカビ菌を育てるものです。必ず熱処理されていない甘酒を使用する必要があります。
……とまあいろいろありますね!
いずれも酒種にくくられますが、仕上がる種の内容は厳密には違うもののようです。
酒粕酵母は酒粕から起こすので、スタートから清酒づくりのための酵母が含まれます。こちらを中心に微生物叢が決まります。
ごはんと麹の酵母は材料を合わせるのは一度だけ、その後スクリーニングもフィードもしないので、酵母とコウジカビ菌が優勢で乳酸菌はほとんど残っていないものと予測されます。
甘酒酵母は甘酒の中でコウジカビ菌が生きている場合は、ごはんと麹の酵母にもっとも近いものだと思います。米サワー酵母は添加する乳酸菌が動物性の乳酸菌ですので、あくまでもpHを手早く下げるための手段としてヨーグルトを用いるだけで、種の中では酵母とコウジカビ菌が育っていきます。
これらに対してもっとも歴史の深い伝統的な酒種は、酵母と乳酸菌、米麹のコウジカビ菌をそれぞれバランスをとりながら育てるものです。4回の種継ぎの際にごはんを数回に分けて加えるのですが、こちらのごはんが酵母の餌になると同時に空気中の酵母と乳酸菌をキャッチする役割を果たします(酒蔵には良い菌がたくさんいるのですね)。
とはいえ実際は乳酸菌はゆるやかに淘汰されていきますので、圧倒的に優勢なのは酵母とコウジカビ菌です。それでも新しい4番種完成から2日は乳酸菌も生きているという研究結果が示されています。
酒種は発泡力が強くパンはよく膨らみますが、タンパク質分解酵素を多量に含むので温度管理に注意する必要があります。
酒種の詳しい起こし方はこちらをご覧ください。
サワー種
「サワー種」という単語は捉え方の難しい単語です。日本のパン文化はポルトガル語やフランス語、ドイツ語、英語など、いろんな国の言葉が絡み合って進化してきました。
広義には、世界各国のあらゆる発酵種で、自然由来の酵母や乳酸菌(ものによっては酢酸菌も)を粉と水によって培養した発酵種をすべてひっくるめて「サワー種」と呼びます。
より限定的に使用する場合は、粉を限定したり乳酸菌を限定したりして、はっきりと鮮やかな酸味を感じられるように培養し、ルヴァン種やリエビトマードレなどとは区別されることもあります。
この場合はドイツのライ麦サワー種(アンシュテルグート)のことを指したり、サンフランシスコサワー種を指したり、北欧のスアダイを指したりします。
あるいはいわゆるサワードウベイカーさんたちが使用する、種継ぎの小麦粉の一部にライ麦や小麦の全粒粉を使用して発酵力を整えた「サワードウスターター」を示すこともあります。これもサンフランシスコサワー種が発祥と言われたりするので、サワー種という言葉はそれぞれが干渉し合いながら定義されているという印象です。
でもそんなところもすべてひっくるめて、フランスで起こせばルヴァン、ドイツで起こせばライサワー、アメリカで起こせばサワードウ、北欧で起こせばスエダイ、ぜんぶ同じような種で言語が違うだけだよ、と解説している書籍も山のようにあります。
ごちゃごちゃに使用されているので、前後の文脈で読み解く必要があります。難しいですね。
そんなわけなのでここではわたしがわかる範囲で、全部ひっくるめてご紹介しますね。
サワー種の種類
- ルヴァン種
- ライ麦サワー種 / アンシュテルグート
- リエビトマードレ
- サワードウスターター
- サンフランシスコサワー種 / ホワイトサワー種
サワー種の起こし方
ルヴァン種は次のものから起こします
・小麦粉かライ麦粉
・水
(・モルト)
詳しくはルヴァンリキッドの起こし方をご覧ください
ルヴァンリキッド、ルヴァンシェフと呼ばれるものがこのルヴァン種の初種です。市販の酵母と組み合わせたり、ポーリッシュ種にしたり、1段階法やら3段階法やらを使って仕上げ種に整えたりして本生地に使用していきます。
ライサワー種は次のものから起こします
・ライ麦粉
・水
(・ヨーグルト)
ライ麦と水を合わせて発酵させ、その種の一部をとり数回スクリーニングして乳酸菌と酵母を育てます。
アンシュテルグートと言われるものがこのライサワーの初種です。こちらを1段階法やら3段階法で整えて最終的にザワータイクとして本生地(ハオプトタイク)に使用していきます。
リエビトマードレは次のものから起こします
・小麦粉
・水
粉と水を合わせて発酵させ、その種の一部をとりスクリーニングして乳酸菌と酵母を育てます。厳密にはイタリアの商工会で定められた規定があり、8-10日(サイトによっては20日ほど)1日に3回のスクリーニング、水漬けやシュガーバスの工程を重ねて種を整えていくものです。TA 135-150くらいです。
この1日3回のスクリーニングの2回目ないし3回目の種を使ってパネットーネやパンドーロを仕込みます。
手間がかかる分リエビトマードレで焼くパネットーネはそれ以外の種で焼くものとはまったく違ったものになります。素晴らしく美しいですし、圧倒的においしいです。
こちらの種を模して作られた酵母が日本で「パネトーネ種」と呼ばれているものです。イタリアのコモ粉周辺で見つかった特別な菌を含み、およそ400年の歴史がある種だそうです。この種はラクトバチルスコモエンシスという特殊な乳酸菌をはじめ微生物のバランスが独特なので、生地に鮮やかで華やかな酸味と香りがのるのが特徴です。
私はこの生種は扱ったことがないので詳しく解説することはできません。ただ、おそらくリエビトマードレで作ったパネトーネとはまったく違うものに仕上がるような気がしています。
リエビトマードレで作ったパネトーネは今まで日本で食べたどのパネトーネとも似ていないので、結局再現性は低いのではないかなあと思います。
私たちがもっとも手に入れやすい「パネトーネマザー酵母」は酵母自体はイーストなのでパネトーネ種とは違うものです。パネトーネ種に似た風味が得られるようです。
こちらは何度か使用しましたが、リエビトマードレとはまったく異なる香りに仕上がりました。残念です。
サワードウスターターは次のものから起こします
・小麦粉かライ麦粉
・水
粉と水を合わせて発酵させ、その種の一部をとり1日に1-3回スクリーニングして数日かけて乳酸菌と酵母を育てます。
このスクリーニングの配合を、1:2:2から1:5:5くらいでコントロールして本生地にポーリッシュ種として使用していきます。TA200。
サンフランシスコサワー種は次のものから起こします
・小麦粉
・水
・ジャガイモの煮汁
その土地の固有種であるラクトバチルスサンフランシスエンシスという乳酸菌をジャガイモの煮汁で培養・発酵させて作ります。
ちょっと詳しくはわからないです。米Amazonで種菌が買えます。とにかく酸っぱい種のようですね。
……とまあいろいろありますね!
この他にも北欧のスアダイなど、ルヴァン種のようであったりライサワー種のようであったりする、どこか似通っているけれど微妙に違うサワー種は世界中に無数にあるのです。
サワー種って奥深いですよね。
サワー種の使い方
こちらはそれぞれ使い方がありまして、いずれ具体的にコラムを書きたいと思っております。それまでもう少々お待ちください。
その他の季節の酵母
野生の酵母はあらゆるものに付着していますし空気中にも漂っているものなので、どんなものでも酵母を起こすことができます。基本的には、「食物(草花でも起きるみたい)」「水」「糖分」を合わせて、28℃で保存します。
以下にわたしが経験したことがある酵母をご紹介します。
ビール酵母
非加熱のビールを使用して培養する酵母です。フルーティな素晴らしい香りがします。
パン生地にして焼いてしまうと、印象ががらりと変わり、かすれたような穀物っぽい香り(麦の香り?)になります。
ちょっと面白いので、興味のある方は起こしてみてください。もっとも良い香りの酵母(パンにする前だけ)だと思います。
ビール酵母の作り方(準備中)
玄米酵母
玄米からは、発泡力が強くてパンの香りを邪魔しないとても癖の少ない酵母を育てることができます。酵母そのものの香りは特別好ましい香りではないのですが(というか私は苦手な香りがします)、パンにするとさっぱりと香りが消えて仕上がるのでなかなか重宝していました。
ただ、酵母自体があまりいい香りではないのでお世話をしても特別癒されることもなく(むしろ苦痛)、日常的に使用する酵母のラインナップからは外れています。
ノート
天然酵母ってなに?
実を言うと酵母に天然も人工もありません。酵母はすべて天然のものです。区別があるなら天然か人工かではなく、自家培養か工場などの施設培養かの違いです。
唯一、製品の名称として天然という言葉を使ってしまっている製品がいくつかあるので、そちらを指して天然酵母と表現するのは間違いではありません。しかし本来はこのような紛らわしい製品名は避けるべきですよね。
ビタミンCなどを添加していないという意味では確かに天然のような印象も受けますが、ライサワー種にヨーグルトを添加してpHを下げたからといって「人工的な発酵種だね」とは言わないような気がします。
今では天然酵母という呼び名が一人歩きして、どこかに人工酵母が存在するかのような扱いになっています。でもそんなものはないので、わたしたちはできるだけ天然酵母という言葉を避けるべきだと思います。自家培養酵母と言いましょう。
市販のイーストが極端に嫌われるのはなぜ?
市販のイーストは天然の酵母で、自家製酵母となんら変わらないサッカロマイセスセレビシエです。市販のイーストはこのサッカロマイセスセレビシエに糖蜜を加えて培養しているのですが、これも私たちが家庭で酵母に糖を加えて培養する工程となんら変わりません。
一方で「イーストフード」というものは食品添加物(16種類あります)なので、こちらは人工的な添加物です。こちらと混同されている方が多いのではないかと思います。
私たちが家庭で育てる酵母は、イーストの他にもいくつかの微生物を有する複合酵母なので、より複雑な香味があります。よりおいしいと感じる方が多いのは事実ですが、市販のイーストを毛嫌いするのはあまりおすすめしません。なぜなら自家製酵母と市販のイーストの合わせ技はお互いのいいところをより強調する生地作りができることがあるからです。市販のイーストとも上手につきあいながら、自家製酵母のパンを楽しんでいただけたらと思います。